歯科治療のリスクを軽減するために(その1)
みなさん、こんにちは。伊藤歯科医院カワニシです。
糖尿病のお勉強シリーズ第4弾は「歯科治療のリスクを軽減するために」です。
糖尿病治療
糖尿病はインスリン分泌不全とインスリンの抵抗性の増加によって高血糖となる状態です。
1型糖尿病はインスリン分泌が枯渇している状態で、主に自己免疫の仕組みが関与していると考えられています。
2型糖尿病はインスリン分泌の低下やインスリン抵抗性増加をきたす要因に、生活習慣や加齢の影響が加わり発症します。
現在、歯周病治療によって血糖コントロールの改善が期待できるとされていますが、それは2型糖尿病患者に対しての治療の裏付けに基づいています。
歯科治療に際して、日本糖尿病学会では、合併症予防のための血糖コントロール目標としてHbA1cを7.0%未満としていますが、年齢、認知機能、身体活動機能、併発している疾患、使用薬剤のリスクなどを考慮して、それそれの患者の状態に合わせた目標を設定します。
糖尿病治療は、食事・運動療法、経口内服治療、注射による治療に大別されます。
歯科治療時のリスク
歯科治療時においても、合併症を予防するためのHbA1cの目標値は7.0%と考えてよいでしょう。
小手術やう蝕、感染症などの治療時は、糖尿病担当医師との連携が必要です。
抜歯や歯周外科手術後は治癒不全、感染防御機能が低いことが考えられるので、抗生物質の事前投与を考慮します。
その他に頻繁に起こりうるのが急性合併症、特に低血糖による意識障害です。
また、高血糖状態の意識障害もあり、糖尿病ケトアシドーシス、高浸透圧性高血糖症候群がその代表です。
さらに、糖尿病では慢性合併症を併発するケースが多いため、さらにそれらへの配慮が必要となります。
腎臓機能が低下している患者に対しては、消炎鎮痛剤、抗生物質についての配慮が必要です。
合併症をさらに重篤にしたり、糖尿病治療薬の作用に影響する薬剤もあります。
その他、口腔内の乾燥による根面う蝕の多発、歯周病のリスクの増大が挙げられます。
薬物療法中の患者で最も高頻度にみられるのが低血糖による意識障害です。
脳は、唯一グルコースのみを栄養源としています。
薬物の作用による低血糖状態では、脳への栄養が不足した状態を引き起こす可能性があります。
食事直前の治療は避け、食事摂取の時間と糖尿病治療薬の服用を確認してから治療へ進みます。
初期の低血糖状態では、冷や汗、不安感、手足の震え、顔面蒼白といった交感神経症状が現れます。
低血糖が進行すると、頭痛、目のかすみ、動作緩慢、集中力の低下といった中枢神経症状になり、さらに進行すると痙攣発作、低血糖昏睡に陥ります。
治療が遅れると死亡に至ることもあります。
歯科医師が患者のわずかな状態変化に気づくことは大切で、そのために、患者との良好な関係を築いておくことも重要です。